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昭和電工株式会社

「やらなきゃいけない」ではなく「やりたい」と思える障害者インクルージョンを。昭和電工株式会社のダイバーシティ&インクルージョン(D&I)

本記事の主なテーマ:ダイバーシティ&インクルージョン/社内理解

※昭和電工株式会社様は2023年1月より「株式会社レゾナック」に社名変更されております。以下は取材当時の内容です。

インタビューに答える昭和電工株式会社 人事部 カルチャーコミュニケーショングループの鈴木様と市川様の写真

昭和電工株式会社 人事部 カルチャーコミュニケーショングループ (上)鈴木様・(下)市川様

昭和電工株式会社について

「現場からの理解が得られず、障害のある社員を人事部でしか受け入れられていない」「障害のある社員の受け入れに積極的な部門と消極的な部門の差がある」というように、障害者雇用について社員理解を得ることが難しいと悩む人事の方は少なくないと思います。

昭和電工株式会社は、障害者雇用をダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)の一環として位置づけ、2019年ダボス会議で発足した「The Valuable 500」への加盟をきっかけに、障害のある社員を応援する「オンリーワンサポーター」制度や「障がい者インクルージョン応援サイト」の立ち上げなどユニークな取り組みによって、義務としての障害者雇用ではなく、社員が自発的に障害者雇用に取り組む文化をつくっています。

今回は人事部の鈴木様・市川様に、昭和電工株式会社が経営戦略としてD&Iを進める真意と、法定雇用率達成に留まらず障害者インクルージョンにどのように取り組んでこられたかについてうかがいました。また、これまで障害者採用に躊躇するところもあったという事業所人事・萩原様へ、事業所内においてD&Iへの理解をどのように広めていったかをお聞きしました。

(この記事ではスクリーンリーダーでの読み上げに配慮し、企業様のお取組みに関する資料や固有名詞部分を除き「障害」の表記を採用しております。)

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)は合理的な経営戦略

障害者インクルージョンのロードマップの書かれたパワーポイント資料の画像。障害のあるなしに関わらず、成長や成長実感の向上を支援するプラットフォームを設けることを目的として、意識と宣言、種まき、育成と成長、開化の4つのフェーズに分けて、それぞれのアクションプランとコンテンツが示されている。

ゼネラルパートナーズ(以下GP):昭和電工株式会社(以下、昭和電工)がD&I推進の取り組みを始めたのはいつからなのでしょうか?
鈴木様:昭和電工では2008年から「社員の多様性を尊重した経営」を経営戦略の一つに掲げて、さまざまな取り組みを進めてきましたが、障害者雇用をD&Iの文脈に位置付け本格的に活動しはじめたのは2014年からでしょうか。

市川様:当時の社長であり現会長である森川が話していたことが心に残っているんです。「初歩的な質問ができる風土があると、同じ性質を持つもの同士ではできないような疑問が表出し、新たな発見につながる。だから異なる性質の人との関わりから新たな課題を抽出し、自分ごととして取り組んでいくことが大切だ」と言っていました。お客様の想像を超えるような発見をし、企業として勝ち残っていくため、経営的な合理性からD&Iが必要だと思っているんです。

鈴木様:日本には法定雇用率制度があることから、「必要な人材を採用する」のではなくて「義務として採用する」という側面もあると思います。でも、それはD&Iの考えと照らし合わせると本末転倒なのではないか?と思っているんです。昭和電工では経営理念に向かってさまざまなバックグラウンドの人の力を活かせるよう、職場で本当に必要とされている業務の切り出しをし、それができる人を障害の種類にとらわれずに採用しています。

GP:障害者雇用をD&Iとして取り組み始めた2014年当時、昭和電工様の障害者雇用はどのような状況だったのでしょうか?
鈴木様:最初は課題ばかりだったんです。私や市川が入社した2014年ごろは雇用率2.48%と高い水準ではあったのですが、それまで身体障害の方を中心に採用してきたため知的・発達・精神障害のある方の雇用ノウハウがなく、また社内にも休職者がいることから精神障害のある方の受け入れを見通せる状況ではありませんでした。加えてD&I推進において重要な観点ですが、各事業所に対しての雇用数を「義務」として課していて、社員一人一人においても、組織としても、障害者雇用に対して前向きな状態ではなかったと思います。

市川様:そうした状況から、まずは知的・発達・精神障害のある社員の雇用ノウハウを確立させることに取り組みました。本社に雇用のノウハウがなければ全国にある事業所人事が困ったときに課題解決に動くことができませんからね。

鈴木様:2014年から知的・発達・精神障害のある社員を集合配置で雇用する「ジョブサポートチーム」を立ち上げました。現在は8名が在籍していて、社内の名刺印刷サービスや社内メール便サービス、複合機トナーデリバリーサービス、社内e-learningコンテンツの作成などさまざまな業務を行っています。

GP:「ジョブサポートチーム」によって得られたノウハウについて教えていただけますでしょうか?
市川様:採用基準についてのノウハウを得られたことは大きかったと思います。私たちは就業準備性を「Human Skill」、任せたい業務を遂行できる能力を「Technicall Skill」と言って、この二つの観点を重視して選考するようにしました。特に「Human Skill」については(独)高齢・障害・求職者支援機構が提唱している職業準備性ピラミッドにもとづいて、健康管理・生活管理・対人スキルなどを確認しており、41項目の観点があるアセスメントシートをつくり実習を通してアセスメントをしていました。

鈴木様:就業準備性という考え方を得たことは、採用だけではなく社内理解を得ることにも役立ちました。これまで社内に休職者がいることを理由に精神障害のある方の採用に反対する消極的な声がありましたが、障害者雇用として採用する人は症状が落ち着いて就業準備性の整った方なので、今まさに治療を行っている最中の方とは異なるということを伝えられるようになりました。そして、就業準備性を見極めるノウハウが社内にあると言えるようになったことで現場を安心させられるようになりました。

社員の自発性を引き出し、インクルージョンを進める

オンリーワンサポーター500のロゴを使用したパンフレットとステッカーの画像。オンリーワンサポーターのロゴは、青い丸の中に数字の1の下に右を差す矢印の意匠

D&Iパンフレット(左)・オンリーワンサポーターのステッカー(右)

GP:「ジョブサポートチーム」によって雇用ノウハウが得られたあと、次のステップとしてどのような取り組みをされたのでしょうか?
鈴木様:前述の通り、当時は障害のある社員の力を組織の力にするというビジョンからはほど遠い状況でした。一方で、私は昭和電工には優秀な社員が多く、課題を知り・気づくことができればより良い形で障害者インクルージョンができるんじゃないかと思っていたんです。こうした課題感から、次のステップとして社員一人一人に障害者インクルージョンを自分ごととして考えられる状態を目指したいと考えました。
市川様:そこでまず、インクルーシブな職場環境づくりについて賛同する社員を募る「オンリーワンサポーター」制度を設立したんです。この制度でオンリーワンサポーターになった人にはオリジナルステッカーを送っていて、「自分は障害のある社員を応援します」という意思表明をしてもらっています。LGBTQ ALLYと似たイメージですね。当初、500人のサポーターを集めることを目標に2020年12月から募集を開始して、2021年3月には2364人、2022年2月末には5200人以上の社員がらの登録があり、私達も驚いています。
GP:オンリーワンサポーターになってもらうために、何か施策などは行ったのでしょうか?
鈴木様:社員がこの制度に「参加したい」と思ってもらわなくてはいけないのでいろいろと工夫しました(笑)。ちょうど2019年に昭和電工がダボス会議で発足した「The Valuable 500」(障害者が多様な価値を発揮できる社会の実現を目指す世界的な活動)に署名したのですが、これを活かそうと思ったんです。「The Valuable 500」の創設者であり自身も視覚障害当事者であるキャロライン・ケーシー氏に昭和電工に向けてメッセージをもらうとともに、CEOからトップメッセージとして全社員に向けて障害者インクルージョンを含めたD&Iが進化のために必要だと伝えてもらいました。
市川様:こうした影響力のあるリーダーからのメッセージに加えて、D&Iパンフレット「障がい者インクルージョン編」を作成し配布しました。このパンフレットではD&I推進を考えるための4つの観点「マネジメントを変える」「コミュニケーションを変える」「働き方を変える」「自分を変える」を提示しているのですが、この観点をもとに「自分では何ができるか?」を考える「D&Iワークショップ」を国内541チーム、国外16チームが実施してくれました。

昭和電工のD&Iパンフレット「障害者インクルージョン編」のイメージ画像。「障害者インクルージョンについて考えよう」と題されたワークのページが示されている

D&Iパンフレット「障がい者インクルージョン編」より抜粋

鈴木様:社員の反応はさまざまでポジティブな気づきもあれば、一方で消極的な反応もありましたが、今はそれでいいと思うんです。まずは知ってもらうことが大事だと考えていますし、今後オンリーワンサポーターの登録がより増えれば社内でD&Iに賛同するということがマジョリティの考え方になりますからね。
市川様:これらの施策を実施したあとに、社員の中から「良い内容だから継続できるように社内のイントラネットでいつでも見られるようにしたい」という声が上がったんです。それを受けて「障がい者インクルージョン応援サイト」というものを立ち上げました。
このサイトのなかでは「障害に関する知識」「障害のある方と働くためのヒント」「だれでもできる心遣い(合理的配慮の事例)」を動画コンテンツとして「ジョブサポートチーム」で作成し、配信しています。10分くらいの短い動画なので昼食時間などに視聴している社員もいるようです。

「障害者インクルージョン応援サイト」のホームページ画面の画像

はじめは後ろ向きだった?!土気事業所のD&Iの歩み

笑顔でインタビューに応える人事の荻原様の写真
GP:ここから土気地区の事業所人事・萩原様に現場でどのようにD&Iへの理解を広めていったかをお聞きしたいと思います。まず土気地区での障害者雇用の状況について教えていただけますでしょうか。
荻原様:はい、土気地区の事業所では2021年時点で障害のある社員が1名しか在籍しておらず目標雇用数に対して未達の状態でした。土気地区では研究開発を行っており、専門性の高い業務が多いという特徴があります。こうした事業所の特徴を踏まえたうえで「多様な人財」が活躍し、「新しい働き方」を築き、新たな価値を生み出すにはどうすべきか、どのような方が就業できるのか、正直なところ私自身にもあまりイメージがわかない状況でした。
GP:そうした状況からどうして障害者インクルージョンを進めようとなったのでしょうか?
荻原様:「The Valuable 500」に加盟したことや、CEOによるトップメッセージを聞いたことで、高度な専門性を求める事業所であるとしても、それを理由にして障害者インクルージョンを進めなくてもいいのだろうか?と再考したんです。
一方で、いざやろうと考えたときに従来通りのやり方を変える必要性も感じていました。これまで土気地区では人事が受け入れ可能な部署を調整し、雇用するというスタイルだったのですが、このやり方では現場に当事者意識が生まれず定着面でうまくいかなかったこともありました。社員一人ひとりが自分ごととしてD&Iの考え方をもち、そうした風土をつくらなくては、入社いただく方も仕事がしづらいだろうと考え、従来のやり方ではなく事業所全体で取り組もうと考えました。働く仲間がWIN・WINとなり皆がハッピーとなれるような職場を目指したかったのです。
GP:具体的にはどのようなことからはじめたのでしょうか?
荻原様::最初は土気地区の私を含むD&I推進代表3名で打ち合わせを重ねました。ここで会社全体のD&I方針や組織方針を共有し、「みんなの力を融合して多様な人財を生かした新しいスタイルを築く」というキャッチフレーズをつくりました。これをもとに組織長、グループリーダーに説明して、6名のワーキンググループメンバーを選出してもらったんです。加えて、土気事務所長から土気地区の社員全員に向けて障害者インクルージョンに向けたキックオフ宣言をしてもらいました。一部の人だけが参加していることではなく、事務所長からのメッセージがあることで組織として取り組むべきことだと伝えたかったんです。
GP:ワーキンググループではどのような検討を行ったのでしょうか?
萩原様:ワーキンググループは月1回、2時間(計9回)行っていました。最初は社内の採用事例から成功例・失敗談をヒアリングしたり、合理的配慮の基本的な考え方を学ぶことなどを行いました。その後は各職場で業務を切り出してみるということを繰り返しました。とにかく先入観をなくして、「これをやってもらえたら助かる」という業務を出してもらい(最終的に200項目になりました)、それをワーキンググループのなかで分類しました。
GP:ワーキンググループの業務切り出しの結果、お一人の採用が決まりました。入社された方(Oさん)の現在の活躍状況はいかがでしょうか?
萩原様:OさんはITリテラシーが高く、業務に前向きに取り組める方で本当によく活躍されています。土気地区の障害者インクルージョンのために、現在はワーキンググループのメンバーとしても参加していただいているんです。

実際に採用ができたということだけではなく、ワーキンググループの活動を通して「先入観をなくすことができた」というのが一番の成果だと思っています。2021年12月にワーキンググループの活動報告を行ったあとに、土気地区のなかでも専門性が高い計算科学部門のワーキンググループメンバーから「うちの部署にも障害のある方のインターンシップという形で来てもらえないか」と申し出があったんです。まさか高度な技術を扱う計算科学部門からこんな話が出てくるとは思っていなかったのですが、まさに先入観をなくした結果だと感じました。インターンシップの件については現在atGPジョブトレ船橋などと連携しながら実習生の受け入れを進めています。

GP:萩原様のなかでこれから取り組みたいことなどを教えていただけますでしょうか。
萩原様:先ほどのインターンシップの件を含めて、今もワーキンググループのメンバーが自発的に各部署で障害者インクルージョンができないかを考えているので、その後押しができればと思っています。また、グループ企業である昭和電工マテリアルズ株式会社の親しい事業所人事から相談を受けることがありましたので、今後はグループ企業へもこのメソッドを共有してD&Iを進めていければと思います。
atGPを通じて入社された方の声
障害状況を踏まえた丁寧な配慮とフラットな職場環境が魅力
GP:最後にゼネラルパートナーズを活用されてご入社された方からもお話を伺いました。現在どのような業務に取り組まれていますか?また、この会社に入社されて良かったと感じる点はありますか?
Oさん:私は現在、書類の作成や会議のセッティング、機材の管理などを担当させていただいています。直近では、オンライン見学会の開催に向けて社内だけでなく社外の方々とのやり取りが多くなっています。

前職で病気を発症する前は、とにかくがむしゃらに働くタイプでしたが、病気以降は自分の限界を意識し無理なく働くことを心掛けるようになりました。昭和電工はそういった私の事情を理解し、こまめな休憩を取りやすいように配慮してくださいました。そのおかげで、今は無理なく働くことができています。

また、私の場合は前職を退職してから昭和電工に入社するまでに約2年間のブランクがあったのですが、昭和電工は障害に対してのみでなくブランクに対しても配慮してくださいました。具体的には、最初からいろいろな仕事をこなすのではなく少しずつ業務の幅を広げていくような対応を取っていただいたため、無理なく働きながら感覚を取り戻していくことができました。

会社全体の雰囲気としましては、上下関係に関係なくさん付けで呼び合うなど非常にフラットで、誰に対しても気兼ねなく発言しやすい環境です。そのため、相談や提案がしやすく、より良いものを築くためによい環境です。私にとっても日々刺激的な素晴らしい環境です。

インタビュー:2022年2月17日

社名 昭和電工株式会社
事業内容 石油化学、有機・無機化学品、ガス、セラミックス、電子材料、アルミニウム、炭素、金属等の研究、開発、製造、販売
従業員数 26,054人(連結/2021年12月31日時点)
URL https://www.sdk.co.jp/

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